iPadロングセラー教育アプリを支える
アイラボ 代表取締役 - 堀口昌伸 Masanobu Horiguchi


「第7回キッズデザイン賞」を受賞したミライエディケーションの教育アプリーー。その中でもロングセラーを続ける「小学生漢字ドリルシリーズ」、そのソフトウェアにはアイラボ社の文字認識エンジンSDKが使用されています。日本随一の手書き文字認識技術として評価を集めるアイラボの堀口昌伸代表に、提携の経緯や基礎研究の舞台裏を聞いた。 (聞き手:土橋克寿)
手書き文字認識技術が一番発揮されるのは“教育”

ミライエディケーションでは、15アプリにアイラボの手書き認識技術を活用しています。(2016年5月時点)ミライとのファーストコンタクトでは、どのような印象を抱かれましたか?
堀口2013年頃に武藤さんから連絡を頂いたのですが、正直に申し上げると「変わった会社だな」と(笑)。我々のお客様の大半は、東京の会社です。名古屋、大阪、福岡は取引がありますが、札幌や仙台にはありません。その中で、突然佐賀から連絡を頂いたので凄く印象的でした。
アイラボ社の認識エンジンを使用したアプリの中でも、特に「小学生漢字ドリルシリーズ」はApp Store教育ランキングのロングセラーとなりました。今では、様々な教育機関で採用されるiPad定番漢字アプリになっています。
堀口我々としても、この時のお声掛けは凄くタイミングが良かったのです。手書き文字認識IMEは、新しい入力手段そのものです。その頃から感じていましたが、我々の技術が一番発揮されるのは”教育”だといえます。その頃に引き合いがあったのは、小中学生向けの塾の経営会社・塾向けのコンテンツ開発会社・教育出版会社がほとんどでしたので、ミライエディケーションとお付き合いするのは面白いと思ったのです。珍しいので、インパクトが強かったですね。
ミライエディケーションのアプリは、こどもが一人で操作して学べるように、アプリの構成や遊び方を工夫しています。身近な題材を元に楽しく学び、自主的な学習を進めるような内容を取り入れてきました。堀口さんはなぜ、手書き文字認識技術と教育分野との相性が良いと考えられたのでしょうか?
堀口まだまだ多くの方々が、手書き文字認識をキーボード入力の代替手段と思っていらっしゃいます。棲み分けがされているはずなんですが、一般的には比較対象となっているのです。しかし、教育分野ではそういう議論を挟まずに、性質上“手書き”が第一選択になるのです。
他に、教育分野ゆえの特徴はありますか?
堀口カスタマイズ要求は多くなりがちです。特に、アナログ的な部分のある「書写システム」についてですね。数式についても、小学生ユーザーの場合は小数点の“.”を”。”と書いたりしてしまいます。例えば、「3.2+1.0=4.2」と「3、2+1。0=4、2」では、全く異なる数字・数式と認識されます。また、「10÷3=3あまり1」のように、数式に日本語文字が絡むと、それぞれに対して全く異なる判定方法が必要になるのです。
30年近い基礎研究

アイラボの製品は、東京農工大学中川研究室が開発したオンライン手書き文字認識技術をベースにされているそうですね。どのような背景があったのでしょうか?
堀口中川研究室は1980年後半に、ヒューマンインターフェース(自然な動作で選択・入力できるインターフェース技術)の研究開発を始めました。そして、1990年代初期にウィンドウズ3が発売され、手書き文字認識が騒がれ始めたのを受けて、徐々にその領域の研究を促進させていったのです。なぜなら、当時の日本人はキーボード入力が苦手だったからです。マイクロソフトとしても様々な関連製品を提供しましたが、解決の糸口は中々見つかりませんでした。 そういった時代背景の中で、IBM、富士通、NECなどの名立たる大手企業が、まずは業務向けにと研究開発を本格化させていったのです。文字認識というのは、パターン認識の一部に当たるので、大手メーカーは既に基礎技術を持っていたことも追い風でした。ただ、タブレットがないとそもそも手書き入力できないにも関わらず、当時のタブレットPCは20万円くらいしました。結果的に、手書き文字認識にとっての“暗黒の時代”が続いたのです。 中川研究室としては基礎研究を続けましたが、文字認識技術を向上させるには、データ収集が必要であり、どうしてもお金が掛かります。転換点となったのは2008年、「JST大学発ベンチャー創出推進」に採択されたことでした。2008年〜2011年に受けた補助金を活かして、ビジネス化を目標に研究開発を一気に進めました。文字認識エンジンそれ自体は既に高い水準でしたので、この3年間に認識技術が向上したのは、品質保証としてバグフィックスを徹底的に行なったことが要因です。
認識技術が向上していく過程において、何か劇的な成長ポイントがあったわけではないのですね。
堀口結局、基本は全て同じなのです。例えば、”あ”を認識する時、それはインクデータ、つまりデジタルの点でしかありません。だから、画数が多い字の方がむしろ認識率は上がります。というのも、単語一個に対してのみ判定しているわけではなく、その文字の後に何が書かれる確率が高いとか、前後の関係で色々判定しているからです。これは、カタカナや漢字でも同様です。
2010年1月にiPadが登場したことは、どのような影響を及ぼしましたか?
堀口我々としてもタイミングが良く、やはりiPadの存在は大きかったですね。業界内も盛り上がりを見せました。ソフトウェア開発を手掛けるMetaMojiが、iPad用のデジタルノートアプリ「7notes」を2011年2月に発表しています。これについては、仏ビジョン・オブジェクトの手書き認識エンジンが採用されています。この頃から、色々な方に同社と我々のエンジンを比較検討頂いてきました。 当時、認識精度はほぼ同レベルでしたが、処理速度に関しては差がありました。ただ、このような好敵手がいたことと、需要が一気に盛り上がった2点が、結果的に我々のエンジンを飛躍的に進化させました。こういったタイミングが重ならなければ、このスピード感で現在の水準まで仕上げられなかったでしょう。
小学生漢字ドリルシリーズの1つーー、「小学1年生かん字ドリル」は小学1年生で習う漢字80字を全て網羅した学習アプリです。漢字を目で見て、耳で聞いて、指で書いて、楽しく読む力と書く力を身につけます。豊富な例文を使って文字の使い方や漢字の持つ意味を習得すると共に、正しい書き順をアニメーションで学ぶことによって美しい文字を書く練習ができるようになっています。海外の手書き認識技術はどのような状況なのでしょうか?
堀口先程話に出た、フランスの大学発ベンチャー「ビジョンオブジェクト」が業界全体をリードしています。ここは強敵ですが、総合力で我々を上回るのは同社くらいであり、我々のライバルはこの1社だけといえます。
入試センター改革への活用も

現在の主力製品について、改めて教えて頂けますか?
堀口我々の手書き文字認識エンジンは、金融・保険業界の申し込みシステムや教育・学習の業務アプリケーションなど、様々な業界で採用されています。高精度な認識率を実現しており、記入枠なしで95%、記入枠ありで99%の認識率を達成しています。これと同様に、数式認識エンジンについても高い評価を頂いております。 また、漢字の筆順・きれいさ判定エンジン「書写システム」は、小学生向け漢字(1006文字)の書き取り練習で、画数、筆順のチェックやきれいさの判定を行います。判定結果は自動採点、リアルタイムで筆順のミスを警告することも可能です。
堀口さんはどういった経緯で、ユーザーインターフェースや手書き入力デバイスに関わるようになったのでしょうか?
堀口私は、武藤工業(現在は主に情報画像関連機器事業を手掛ける)に約20年間勤めました。当時はペンベース部長・モバイルシステム部長として、液晶タブレットや日本IBMの携帯型手書き端末クロスパッド、小型携帯端末Decrioなどの商品化を手掛けました。しかし、バブル崩壊のあおりを受けたのです。事業整理の一環で、私が担当していた事業領域から会社が撤退しました。売り上げは10億前後まで伸びていたのですが、赤字から抜け出せていなかったためです。
中川正樹教授とも、この頃に出会われたのですか?
堀口1994年に、NTT、ワコム、キャノン、リコーなどの大手メーカーが持ち回りで、研究者向けの勉強会を行っていました。中川先生とは、ちょうどこの頃からのお付き合いです。2000年4月に武藤工業を退職した後は、日本サイバーサインでのサイン認証ビジネスを立ち上げや、手書き文字認識販売のアイシンクス設立を経て、2011年12月のアイラボ創業に至ります。
長い時間を経て、手書き文字認識ビジネスの本格的な事業化に結びついたんですね。
堀口はい。これまでずっと、何らかの切り口で手書き入力に関わってきました。繰り返しになりますが、アイラボでは日本語の手書き認識を利用した診療所向け手書き電子カルテシステムや教育学習支援システム等の商品化を行ってきました。最近では、MetaMojiの製品に搭載され、大手ベンダーの製品としても発売されています。
様々な分野からの引き合いが増えているのではないでしょうか?
堀口2014年には東京都のベンチャー技術大賞を頂き、2015年にはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の課題設定型産業技術開発費助成金に採択されました。15年度の採択会社は、我々以外は製造業ばかりです。彼らの趣旨とは異なる領域からの提案ながら、採択して頂いたのは誇りですね。 採択理由として、我々が自動採点システム開発に焦点を当てたことが大きかったです。2020年までに、政府は大学の入試センター改革の一環として、マークシート形式を止めることを決めています。記述式まで含めるかはわかりませんが、いずれにしてもチェックマークシートから変わるのです。 センター試験は重要度が高いテストでありながら、4択問題なら25%、5択問題なら20%の確率で当たってしまいます。しかし、何百万人が受けて、即座に答えを出すのはこの方式しか現実的でなかった。問題があるのは把握しつつも、そうせざるをえない技術的背景がありました。しかし、我々のエンジンを応用すれば、5教科自動採点システムの開発も可能となります。これは非常に大きいインパクトがありますので、ぜひとも実現させたいです。
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